小林正弘
清華大學法學博士
Genuineways.Incブランド保護顧問
全世界でコロナウィルスとの戦いが続く中、中國では今年中に國內の絶対貧困人口(年収入2300元以下の人口をいう)をゼロにするという人類史的挑戦が行われている。
中國政府は、2020年を貧困脫卻の難関攻略の目標達成と小康社會(ややゆとりのある社會)の全面的な完成を実現する最後の総仕上げの年と位置づけている。
小康社會の概念は、中國の古典に由來し、鄧小平氏が、改革開放初期にあたる1979年12月に訪中した大平正芳首相から中國社會主義國家建設における「四つの現代化」(2000 年までに工業、農業、國防および科學技術の四つの現代化を実現するという目標)の青寫真を問われたことをきっかけに、提起されたものである。その際、鄧小平氏は戦後における日本経済の発展を念頭に置き、「『四つの現代化』の概念は、貴方たちの抱く近代化のイメージとは違い、それは『小康の家』を目指すもの」と答えた。
改革開放以降、中國の不斷の努力の結果、農村貧困人口は、大幅に減少し、貧困発生率も大きく低下している。すなわち、現行の貧困基準(1 人當たり年間純所得 2,300 元/年、2011年価格水準)によれば、1978 年の中國の農村貧困人口は 7 億 7,000 萬人、貧困発生率は 97.5%であったが、2020年1月23日に発表された國家統計局のデータでは、2019年末の農村貧困人口は551萬人(前年比で1109萬人の減少)、貧困発生率は0.6%とされている。改革開放から40年を経て、実に8億人に迫る絶対的貧困人口を減少させたことになる。これは國際的視點からは、人類共通の喫緊の課題である貧困撲滅について、その壯大な実験が中國で行われ、世界レベルでの貧困撲滅に大きく貢獻したことを意味する。中國政府が貧困対策の各段階で直面した問題に対し、海外の手法も取り入れつつも、國內の実狀に即し試行錯誤を繰り返し、克服してきた経験は、他國が貧困対策を行う上でも重要なモデルケースとなる。
資料寫真:観光業の発展によって貧困から脫卻する貴州省の西江千戸苗寨
具體的な貧困対策としては注目されるのは、山間部等、飲用水の確保が難しく、土地が荒れ耕作にも適さないような生存條件?生態環境が劣悪な極貧地域の貧困対策である。中國政府は、2015年12月にこのような地域の貧困民が希望する場合に、移住による脫貧困を行うことを決定した。移転先のインフラ整備、住居建設、就學、醫療、就職先、産業開発等を政府が主導し、貧困民が移転先で自立し、社會生活の再構築できるまでサポートが必要になる。その政策の実施は、膨大かつ長期にわたる投入規模、貧困再発リスクのコントロール等、いずれをとっても極めて難しい挑戦となろう。とくに、農村生活から都市生活への適応は、その前提となる読み書き等の最低限の學力も必要となり、短期的に解決できるものではない。それは義務教育の充実を通じて次世代も見據えて解決していく必要がある。他方で、貧困の原因を家庭構成レベル、個人レベルにまで落とし込んで具體的に分析し、貧困原因ごとに多様な貧困対策を複合的かつ的確に使用して、自立をサポートする試み(プレシジョン貧困対策)も積極的に行われている。
中國政府の歴代指導者に継承され、段階に応じて調整されてきた小康社會政策とその具體的な対策には、中國政府の貧困対策への責任感と本気度、いわば人間主義の発露というべきものが如実に現れていると言えよう。
中國古代の思想家が夢見た「大同」思想に基づく理想の社會の建設をゴールとするならば、絶対的貧困人口が統計上ゼロとなり、全面的小康社會が実現することも、一つの通過點といえる。生活の質の向上と14億の人民一人ひとりが安心して幸福を育むことができる社會の建設への挑戦に終わりはない。
?中國網日本語版(チャイナネット)? 2020年5月20日